<樽の種類 その1> malt blog より (04.5.20up)


以前に紹介した「山崎蒸留所原酒テイスティングツアー」では、バーボン樽スモーキーシェリー樽ミズナラ樽の4種類の樽で熟成されたシングルカスク(一つの樽だけから取り出された限定品)のモルト原酒をテイスティングしました。

このうち、ミズナラ樽はサントリー独自というか日本だけのもので、サントリーの高級ブレンデッドウイスキー「響」の重要なキャラクターとなっているものです。サントリーのブレンダーはこれを神社仏閣の香りと称していました。

またスモーキーは樽の種類としてはバーボン樽を用いているのですが、原材料の麦芽を乾燥するときにピート(泥炭)を多く使って、煙り臭さ、薬臭さ(よく正露丸が引き合いにだされます)を全面に出しています。よく「ピーティー」という言い方をしますが、スコットランドではアイラ島のウイスキーに強く表れるキャラクターで、モルトウイスキーが好きな人は、一度はこれにはまるといっても過言ではないと思います。

以上の2種類はウイスキーに個性を与える、ある意味でローカルな原酒ですが、スコットランドで広くウイスキーの熟成に使われているのは、やはりバーボン樽シェリー樽の2種類です。


●バーボン樽

なぜバーボン樽(バレル)がスコッチウイスキーの熟成に多く使われるのかというと、アメリカのケンタッキーで造られるバーボンウイスキーは熟成にオークの新樽を使うことを法律で定められているため、一度使われた樽の多くはスコットランドに輸出され再利用されるからです。

実際にはバーボン樽は180リットルと比較的容量が少ないため、一度分解した樽をやや大きめ(250〜300リットル程度)に組みなおした、ホグスヘッド樽を用いるケースが多いようで、北米産オークを原材料とするこれらの樽を「アメリカンオーク(カスク)」と称することもあります。また単に「オーク(カスクor樽)」と呼ぶときもあります。

輸入後に初めて使われた樽で熟成されるモルトウイスキーはファーストフィルと呼ばれ、当然のことながらバーボンの影響が強く表れます。私の印象では蜂蜜のような甘さとしてそれが出てくることが多いように思います。小さなバーボン樽はウイスキーの熟成を早めることもあり、バーボンの影響を強く出しすぎないという意味でも、ファーストフィルのバーボン樽熟成ものは若いモルトとして出されることが多いようです。

そしてセカンドフィル、サードフィルと再使用されることでバーボンの影響は薄れていき、こうした樽のことを「プレーンオーク(カスク)」と呼ぶこともあります。プレーンオークで熟成されるとモルトウイスキー本来の味わいがそのまま表れてくるので、それ自体に高い質が求められます。微妙な味わいを残す20年前後のオーク樽熟成のモルトウイスキーは私が最も好きなものですが、シングルカスクとしてリリースできる樽は極めて限られており、非常に貴重なものとなっています。


●シェリー樽

スコットランドの地酒にすぎなかったウイスキーがなぜ世界中で飲まれるスピリッツ(蒸留酒)になったのかといえば、それは樽による熟成によって他のスピリッツない深い味わいが加えられたためだといわれます。そして密造酒を隠しておくために当時スペインから輸入されていたシェリーの空樽に詰められ数年後に飲んだら美味しくなっていたことから樽による貯蔵が始まったというのが定説になっています。

シェリーを取り出してすぐの樽(バットと呼ばれる)を用いて熟成されたモルトウイスキー、つまりファーストフィルバットものは、当然のことながらシェリーの影響を多く受けます。特に色が濃く甘みも強いオロロソタイプのシェリーに使われた樽で熟成した場合は、やはりモルトにも濃い色がつき、濃い赤みがかった琥珀色や場合によっては黒といっていいような色がつく場合もあり、香りや味にも強い甘みが乗ることがあります。また、こうしたモルトにはゴムのような臭い(硫黄臭)を感じることが多く、これもシェリー樽熟成物の個性の一つであるといえます。

<その2> へ続く