<ウイスキー造りというビジネス> 03.07.11 惹樽

80年代から90年代にかけてかなりの数の蒸留所がモルトウイスキーの製造を中止した。中には完全に設備を撤去してしまい、再開の可能性がないところもあるが、生産を再開したところ(数は少ない)、再開の噂が何度もありながらモスボールドといわれる休止状態が続いているところなど様々である。Yahoo!掲示板のシングルモルトラヴァーズで閉鎖蒸留所の話題を振ったところ、やはり市場で人気があるポートエレンやローズバンクの再開を望む声が多かった。

さらにその掲示板で本坊酒造の信州工場(マルスウイスキーという知る人ぞ知る地ウイスキーを製造していた)をコニサーズクラブのメンバーで見学したときの話題も出してみたところ、小さいながらも質の高いウイスキーを製造していたメーカーとしてマニアの間では知名度が思った以上に高いことが分かった(実際テイスティングしたものの質は高かった)。

見学した時は工場長からお話を伺うことができたのだが、一時の地ウイスキーブームで生産量を大幅に増やしたが、その熟成を待っている間にブームは去り、輸入ウイスキーの税率が下がったこともあり、製造を休止せざるを得なくなったという話であった。また再開にはポットスチル(蒸留器)の清掃だけでも数百万の費用がかかるということで、残念ながら再開はかなり困難であるということだった。

ウイスキーの場合、出荷までに何年も寝かせる必要があるため、経営的にはギャンブル的要素が多く、小規模なメーカーが作り続けるのは困難なようだ。スコットランドの蒸留所もほぼ同じ事情であろう。

ワインの場合は天候のリスクが一番高いのであろうが、時代に合わせた酒造りをやりやすい(10年以上も寝かせることができるワインの製造者は別格だが)のに対し、ウイスキーの生産はこの変化が早い時代にはビジネスとして成立しづらいと言わざるを得ない。とにかく飲みやすい酒が多く売れるようになってきている(日本だけだろうか?)のでなおさらである。

日本酒は全体の消費量が下がっているなか、長く続くブームのおかげで、良心的な作り手による良質な地酒が多く流通するようになってきた。それでも酒造元の経営は大変であるとは聞いているが、飲み手と作り手のいい共存関係ができつつあるのではないだろうか。

今のままでは生産者が淘汰されてしまうだろうが、日本酒がそうであるように、ウイスキーはスコットランドの大事な文化なので、飲み手がただ出てきた製品を買うだけでなく、もう少し違った形で生産者を支える仕組みができることを期待したい。

ナチュラルトラストならぬウイスキートラストみたいなものを結成して、費用を負担する人が、こんなウイスキーが飲んでみたいという形で生産にコミットするとか、投資の対象として樽を買い付けるウイスキーファンドをやってみるとかいうのはどんなものだろうか?